少し前になりますが、9月の半ばに1週間ほどドイツに行って、ドイツの森を見てきました。
ドイツの職業訓練校で林業を学ばれてドイツでの現場作業経験もある、三井物産フォレストの伊藤史彦さんにお誘いいただいて、同行させていただいただく機会を得たという形での訪独となりました。
現地では、シュヴァルツヴァルト地域で現場フォレスターを目指してお仕事をされている河野翔さんに案内していただいて、ドイツの森や林業について視察することができました。
リヒテナウ 林業機械展DLG Waldtage
滞在1,2日目はドイツ中東部のリヒテナウで行われていた林業機械展DLGで、欧州の林業機械や林業資材、防護具、ソフトウェアなどを見て回りました。
デモを見る機会は少なかったのですが、欧州の林業機械を実際に見ることができ、なによりその種類の多さや大型だけでない規格の多さに驚きました。
特に面白かったのがツリーシェルターのブースが3つほど出ていたことです。
どれも自然に還るようなコンセプトで開発されたものでした。高価なためにまだ現場に普及するレベルのものではないのでしょうが、松枯れが広がって植林の機運が高まっている中で自然に配慮した資材を作っていこうという姿勢の表れだと思います。
プロダクトそのものというよりは、新しい資材・機械を社会の情勢に合わせてどんどん開発していこうという姿勢を象徴しているなという印象を受けました。
あと、訪れている方には家族連れや女性もたくさんおり、業界人だけの展示会じゃない雰囲気も見られて、林業という産業がドイツ市民に広く浸透いる様子が感じられました。
ちなみに、日本では今は手に入らない?PSSという林業防護服メーカーのフリースを購入できたのはこの旅の大きな収穫です。
シュヴァルツヴァルトの森とフォレスターの仕事
3、4日目にはドイツの南部まで大移動して、翔さんの仕事場のあるシュヴァルツヴァルト地方へ。翔さんのご自宅に泊まらせていただきながら、管轄区の森林を見せていただきました。
翔さんはこの9月までローラッハ(Lörrach)郡トートナウ(Todtnau)森林署支部(正確な日本語訳が分からない)で勤務されています。森に行く前に仕事場でフォレスターとしての仕事の一部を説明していただきました。
日本で言うところのいわゆる「森林簿」のような資料や、森林管理に使うGISシステムなどを見せていただいて、具体的にどういう仕組みで、フォレスターがどう動いて森林管理が行われているのかということを聞くことができました。人材としてのフォレスターの話自体は古くから日本に入ってきていますが、その仕事内容を実際に仕事をされている方から聞くということはあまりないように思います。大変貴重な機会となりました。
午後からは、管轄区の森の方にも案内いただきました。
管轄区には山岳地域も多く、遠くから見てもけっこうな傾斜の山が見られました。
実際の森に入ってみると、傾斜地に生えるトウヒの単相林も多くみられ、ぱっと見は日本の森林と似たような森の雰囲気だなと思う部分もありました。
ただ、遠くから見たときに、山一面おなじ林相という感じではなく、広葉樹が間に見られたり若い林が見られたりと景観的多様性があり、これが森林管理の成果かどうかまでは分かりませんでしたが、日本とは異なる印象を受けました。
翔さんのご案内の最後には、恒続林として管理されている森も見せていただきました。近自然森づくりの方で聞いていたような、多様な樹種が多層に分布し、大きな株がポツポツ見られ、切株の周りに中層木が育っている林相でした。
ここでは3代にわたってフォレスターが恒続林施業を行っているということです。
ここで気付いたこと、驚いたことは様々あるのですが、一番の印象は市街地のすぐそばにあるということでした。
道から近くて平坦な場所は、日本だと林業生産のための針葉樹単相林にまず当てはまる立地なのでしょうが、レクリエーション的な価値としても高く、災害にも強く、生産性も高い森を居住地の近くに置いているということになるので、非常に合理的な森林配置だと感じました。恒続林はすぐ見に行ける市街地(日本で言えば集落)の近くで実践した方がいいという、これも近自然森づくりで習った考え方に合致するものだなと感じました。
シュヴァルツヴァルト最終夜にはフライブルク大学で学ばれている齋藤さん、高主さん、ドイツ在住の池田さんと会食する機会も得られて、様々意見交換することができました。
シュトゥットガルトへ
5日目以降は翔さんとは別れて伊藤さんと、シュトゥットガルトにある伊藤さんの元研修林や職場を訪問しました。
ここでも恒続林施業を実施している森も見られましたし、松枯れしたトウヒ林の伐採跡の再造林地なども見ることができました。
伊藤さんの元職場事務所の向かいにはHaus des Waldesという森林環境育施設も見学しました。
展示物は全部ドイツ語だったので、その内容まではきちんとわからなかったのですが、森のことを体をもって知ることができるような展示の工夫がされていたのが印象的でした。
例えば、気候変動による森林の移り変わりをモニターで見せてくれたり、足元にある扉を開けると土中に住む動物のはく製があったり、地下に下りる階段の壁に木の根や土中に住む動物が描かれてあったりなどです。施設の外の森にも展示物があって、見せ方にいろんな工夫を凝らしているなと感じました。
次の日には、伊藤さんのお知り合いのフォレスターの方に案内いただいて、林業機械で実際に施業している現場も見せていただくことができました。
見に行ったのは、ハーベスタによる集材路開設の現場と、ハーベスタとフォワーダによる間伐作業の現場でした。
これまでの現場でも印象的だったのですが、機械が通るだけの集材路は掘削作業を行わず、機械がそのまま林内に入っていくような構造になっていました。
ある程度の斜面でもホイール機械で斜面角度に上り下りしていて、後半に見た間伐現場は歩いて登るのも大変なぐらいの急傾斜でしたが、機械の後ろに牽引するためのウィンチをつないで上り下りをしており、極力人間の手で行う作業を減らすということを徹底していました。
ここでは作業路は20m間隔ですべての伐倒がハーベスタでできる間隔でした。作業道開設時は列幅3m(機械幅)の列状間伐が行われた後のような森の状態になりますが、若齢の段階で行われるのでその後にきちんと林冠が閉鎖されて、同じような集材路がついている次の現場の森では、作業路の上の林冠はきちんと閉じていました。
また、大きい機械を使っていたのでけっこう荒い作業になるんじゃないかと思っていたのですが、建設機械と違ってブームの根元が旋回する機構になっているので非常に小回りが利き、木が密集する中を上手くヘッドが通っていって伐採木までたどり着くという作業がされていて、丁寧な定性間伐が高速で行われている様を見ることができました。
細かい部分だとこれ以外にも、新しく知ったことや驚いたことがあるのですが、ひとまず大枠はこんなところ。移動中の車の中などで交わされた林業談義も、そのひとつひとつが勉強になりました。旅行中に会った方々や毎食のおいしいご飯、お酒ももちろん大切な思い出です。
結び
普通の視察では得られない貴重な体験をすることができました。
今回見られたものもドイツ林業の一部だと思うし、まだ理解の足らない部分もたくさんあると思うので、頻繁にはといかないまでもまた行く機会を作ってまた違った側面も見たいなと思いました。
今回の旅で、「こうなんじゃないか」「もう少し深めたい」と思ったポイントとして
・ドイツの素材生産は管理・計画・販売を公が行い、民は素材生産に集中できる
・天然更新を成功させるための若木の手入れ
・ICTと人が森を見て判断する技術の融合
・路網の開設にも管理にもお金と手間をしっかりかけている
このあたりが挙げられるかなと思います。各ポイント、しっかり咀嚼して深めていきたいです。
あと、ドイツに限らず外国と日本では行政の仕組みから違うので、自分がどんなことをしているか聞かれても、日本人に対して答えるように答えても伝わらないなということを感じました。海外と比較したうえで、日本の市町村林政はどういう業務をしているのかということを言語化できるようになっていないといけないなと考えさせられました。
最後に、こうした機会をくださり旅の様々な段取りや案内もしていただいた伊藤さん、そしてそこでの学びをより深いものにしていただいき、さらに車の運転、宿泊までさせていただいた翔さん、未来さんご夫妻には心から感謝いたします。本当にありがとうございました。
おいしんご