おいしんごがそれっぽく語ってみた

四国の真ん中、高知県本山町の役場で林業担当をしています。森林のこと、環境のこと、社会のことなど、日々学んだことや考えたこと、感じたことをそれっぽく語っていきます。

森林施業プランナー研修を受けてきた

高知県林業学校が一般向けに開催する「短期過程」プランナーコース(一次研修)に参加してきました。

7月から月1回で全6回の講義で、「提案型集約化施業とは」から始まり、森林施業プランナーに必要な知識や理論等々について学ぶことができました。

 

今回は自分の復習も込めて全体の総括を行ってみたいと思います。

 

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森林施業プランナー、提案型集約化施業とは

日本の林業の大きな問題のひとつとして、森林所有が小規模で分散しているということが挙げられます。

山は一面同じような森なのに、その所有の内訳をみると何十人もの所有者が存在する(必然的に一人当たりの所有面積も猫の額程度)ということは全国どこにでもある話です。

その所有者が自分でその小さな面積を施業するというのなら話は別ですが、誰かに委託して作業するとなるととても非効率なやり方になります。

 

その上、林業が衰退するにしたがって、森林所有者の森林や林業に対する意識というのも弱まっている傾向にあります。自分の持ち山の話になると「小さい」「金にならない」という声は良く聞きます。

施業の受託によって収入を得ていた林業事業体や森林組合も、以前のように施業の依頼が少なくなり、またあっても点的で単発のものが多かった。それでは安定的な仕事ができない。

それを面的で継続的な仕事に繋げていこうというのが、「提案型集約化施業」と言えます。

 

ある一定数の森林所有者の森林を集約して一括して施業を行うことで、効率的な木材生産を行い、それはひいては森林所有者への還元金の増加へ繋がります。

また、そのような理解を得るためには依頼を待っているのではなく、事業体側から積極的に森林所有者に対して「営業」をかけていこう、という変化が「提案型」と称されるゆえんです。

 

そして、その「提案型集約化施業」を進めるための一定の知識と経験を持っていると認定された者を「森林施業プランナー」と認定することで、「提案型集約化施業」を促進させていこう、というのが現在の国の大きな施策となっているわけです。

 

 

研修プログラムについて

全体のプログラムはこんな感じ

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ちなみに参加者は、我々協力隊に加えて、佐川町の地域おこし協力隊の方が2名、あとは森林組合や事業体の方が5人ほどでした。

この研修は、全回参加すると認定一次研修修了となって特別一次試験の受験資格が得られるそうです。 

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では、各回を紹介していきます。

 

第1回(7/12)「提案型集約化施業の進め方」

第1回では、「提案型集約化施業とは」、「その意義や必要性について」ということで、まずプランナーの教科書の著者の一人である藤野正也さんが講義をしてくれました。

その後、県の計画課の方から森林経営計画制度を中心に補助制度の説明を受け、香美森林組合仁淀川町の明神林業における集約化の実践例の紹介がありました。

 

余談ですが、高知県林業学校高知県香美市にあることもあり、香美森林組合の協力を強く受けているようです。これ以降も香美森林組合の方が講師にいらっしゃったり、香美森林組合の現場を視察したりということが多々ありました。

 

第1回では、上述したような「提案型」と「集約化」が必要になった経緯を理解することができました。

特に、「営業」をかけるという発想はなるほどと思いました。この「営業」のために、プラン提案書があるわけだしそのために施業計画や工程管理等々の技術や理論が必要なのだという理屈を知ることができました。

 

また、香美森林組合仁淀川町の明神林業の事例で重要だったことは、事業体とは別に集約化のためのキーマンが存在すること。

香美森林組合の場合、集約化促進委員という形で雇い入れしているわけですが、つまり地元の協力者が必要だということです。集約化しようとしている森林のある集落の顔利きの人や山に詳しい人に協力者となってもらって、相続時に所有者が分からなくなった山林の所有者を探したり、集約化に消極的な人を説得してもらったりといった仕事をしてもらうそうです。

いくら地元の森林組合や事業体といえど、集落が違えば別世界で、やはりそういうところで山を動かそうと思うと、その地域の協力者が必要なんだなということが分かりました。

 

 
第2回(8/9)「間伐理論と作業システム」

第2回では森林施業の中でも重要な間伐について、座学で理論的な部分を学び、実際に森に入って確認するという講義になりました。

 

まずはじめは、森林総合研究所という研究機関の方から理論面のお話。

間伐というのは残す木をよりよくするための経過作業であるという考え方から、作業後数十年を見据える必要があります。その時に、目標林型という、いわば「その森を将来的にどのような森にしたいか」という目標を設定する必要があるということが強調されました。

また、日本の人工林の代表樹種であるスギとヒノキの樹種としての特性が説明され、それに適した育林とはどのようなものかという説明。

そして間伐の考え方として、密度管理図や収量比、形状比や樹冠長率といった数値的に森や木を見るものさしの教科書的な説明が行われました。

 

現場では、ふたつの視察地を回って、そこの資源調査(一定面積内に存在する樹木の胸高直径と樹高、樹冠長を図って、材積量や木の混み具合などを調べる調査)を行いました。

大学の実習で似たようなことをやっていたのでなんとなく懐かしかったです。

 

資源調査を行ったのはよかったのですが、そこからでは実際にどの木を伐るか、どれぐらい伐るかといった選木の話を行った際に、いくつか案が出たわけですが講師の方から明確なアドバイスがなくて残念でした。

選木というのは間伐作業で最も重要な作業だと思っていて、それ次第でその森の将来は左右されると言っても過言ではないと思います。

そして、その考える要素は様々で多くのことを勘案しなければいけません。

それは教科書には書いていないし、研究者が実践できることではなく、やはり現場で実際に森を動かしている人にしかわからないことなんだなという、至極当たり前のことを改めて考えました。

 

 

第3回(9/7)経営コスト分析

第3回では、県の森林技術センターが講師となって、労働生産性の考え方、年間事業量やコスト計算、生産性を左右する工程管理の説明がなされました。

 

森林所有者に提案する際に提示するプラン書でおそらく所有者さんが一番関心のある部分は、その施業をしてどのくらいのお金がもらえるのか、という部分だと思います。

それをきちんと提示するためにも、事前にどれぐらいの材が出せて、どのくらいコストがあって、どのくらいの利益が出るかということを試算しておく必要があります。これもプランナーの重要な仕事のひとつです。

また、仕事を速く安全に行うためには、作業システム(各作業をどの機械を使ってどのような方法で、どのような順番で行うか)が最適である必要があります。それは現場の条件によっても異なってくるので、その現場に適した作業システムがその都度考えられる必要があるわけです。

 

ここで印象に残ったのは「損益分岐点」という観点。

大きな投資・コストをすれば生産性は上がるが、その分損益分岐点も高くなるので生産量・仕事量を増やさないと採算が合わなくなるという問題があります。

以前から推奨されている高性能林業機械もこの問題が付きまとうわけで、仕事をたくさんする分人間の側はたくさんの仕事を用意しなければいけないし、機会が遊ぶ時間が増えれば増えるほどコストも大きくなります。

 

対して、小規模でシンプルなやり方で行ういわゆる「自伐型林業」は、そのコストが比較的小さい分損益分岐点が小さく、仕事量もそれなりで足ります。量はたくさん出ませんし一現場にかける時間も長くなりますが、利益の出るラインが見やすいということもひとつの特徴だと言えます。

一長一短ではありますが、観点のひとつとしてなるほどと思いました。

 

また、作業に入ってからも様々なトラブルで遅れが生じたり事前に計画していたようにはいかなかったりする場合があります。そうした状況を改善するために、工程管理を行ってできるだけプラン書通りに進むようにする必要があります。

 

こうしたコスト感覚や工程計画といった感覚は、おそらく以前の林業界には薄かったのかもしれません。こうしたマネジメント意識が加わってきたのも林業の近代化の大きな特徴なのかもしれません。

 

 

第4回(10/25)作業道と作業システム

第4回では、高知大学名誉教授の後藤先生から前回よりより詳しい作業システムの考え方と林業機械についての講義がありました。

林業機械や作業システムについての教科書的な説明でしたが、実際の作業をしていると理論的にはこのような語られ方をしているのかととても新鮮でした。

また地形条件に合わせた作業システムということで、傾斜や地形の複雑さによって車両系の利点と限界、架線系の特徴などが述べられました。

後藤先生の資料では小規模機械と大規模機械の比較もきちんと行われていて、どのような要素でシステム選択がなされるべきかが述べられているのが好印象でした。

機械化論の立場からも小規模の存在意義(後藤先生自身そこまではっきりとは主張していたわけではないが)が見いだせるような気がしたように思います。

 

その次に、県の技術センターの方から作業道についての講義。

これは、これまでの作業道研修などでも聞いたことのある話でした。

 

その後は香美森林組合の現場に移動して、実際の作業道の視察。

しかし、その道は10tトラックによる運搬を想定した道で、道幅は3m程度でしたが切り高3.5m想定で伐開幅は8mとなかなか大きな道でした。どちらかというと「林業専用道」のようなものだと思います。

正直そんな道を見せられても自分たちがつくるわけではないし、あんまり参考にならないなーと思ってしまいました。

 

ただ、その後考えてこういった大きな道にも意義はあるのかなと思いました。

現在ある林道や一般道も、元々は山だったところを切って作られたものだと考えたら、もし現在作っている大型作業道もそれが堅固であり恒久的に使えるのであれば、一時的に木をたくさん伐って残存木によくない影響を及ぼしていても、その後に新しくできる森はその道に順応した森が形成されるから、道も森になじんでいくのではないか。そうして、新しく形成された森へのアクセスとそこからの生産は容易になる、とも考えられないか。

これは楽観主義的かもしれませんが、本当にその道の作り方とルート選定がよいものであればこのように評価もできるのかもしれません。

 

 
第5回(11/8)木材市況の把握・プラン書の作成

第5回では、まず初めに大豊町にある嶺北木材共販所で木材市況や木材の測り方、品質についての説明を受けました。

どのような材で持って行けばいいかと言った話をざっくばらんに聞くことができました。

嶺北には「おおとよ製材」という大規模製材工場があり、CLT用の材を挽いていることもあって曲がり材でもそれなりの値段でも買ってくれるそうです。基本的に嶺北共販所系列の土場に出している我々としては有益な情報が得られました。

 

驚いたのは、CLTの完成品にするための接着作業は岡山の工場でしかやっておらず、おおとよ製材で挽いた材は一度岡山の方に運ばれている、ということでした。なんか非効率な気がしたけど、今後どのような発展があるのでしょうか。注目です。

流通の部分はやっぱり見えにくい部分ではあると思うので細かく聞いてイメージを鮮明にさせないといけないなと思いました。だれか高知県木材の流通構造を事細かに解明してくれいないかなと思います。

 

木材は売ってこそお金になるわけで、いわゆる川下の状況や流通に関する観点もきちんと持って、いわゆるマーケット調査もプランナーには必要な能力だということを知ることができました。

マーケットの状況によって造材の仕方も変わってくるし、同じ造材方法でも売り先をいくつか確保していれば、売り先を変えて利益を多く出す工夫ができます。そのような采配ができて初めて経営者といえるのかもしれません。

 

午後は、県森連の事務所に移って施業プラン書の作成実習でした。

と言っても、与えられた数値を計算しながら埋めていくだけなのであまり実践的ではないかなと思いました。とはいえ、実際のプラン書を目にすることでどのような項目を把握していなければいけないか、ということを理解することができました。

また最近は専用のアプリも開発されて、何十枚もの資料を一元化できるようになっているようで非常に便利だなと思いました。

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第6回(12/7)森林経営計画の作成演習

最終回の第6回は、改めて香美森林組合の事例をもとに集約化の進め方と森林経営計画の立て方の説明を受けて、グループワーク的に森林経営計画を立てる際の問題点とその解決策を考えるという時間がとられました。

 

最終回だったので目新しいことも少なかったですが、森林経営計画についてその作成の専用ソフトがあるんだということを知りました。

森林簿を流し込んで記入していくと行政に提出する計画書ができるということで、最近できたもののようですが、このように簡易化・統一化が進んでいるんだなということを知ることができました。

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最後にちょっと論考

最後の講義の中で「森林経営計画はすべての基」という説明がありました。

小規模・分散な土地所有者を集約化して、経営計画を作成し、大規模な機械で生産するという、林野庁が推奨する通りのやり方が行われているなあと感心しました。

 

ただこれで「地域の森林管理者になった」と言えるのか、ぼくには甚だ疑問です。

森林経営計画というのも、その実は「木材生産計画」(再生産も含めて)なのではないかと思います。それは本当に経営といえるのか、もっと広く言えば「森づくり」という観点は存在するのか。

講師の話の中では雑木林は計画できないから面積要件から除外できるという話もありましたが、本当の地域森林管理というのは人工林でない雑木林・二次林や竹林も含めた管理を言うのではないかと思います。希少種や生物多様性も考慮した計画であって初めて森林管理と言えると思います。

 

もちろん、これまで硬直しつつあった森が動き始めたというのは喜ばしいことなのかもしれません。高知県は特に人工林面積の多い県なので、大きな問題から動かしていくという意味でも、また経済的な意味で人工林のみをとりあえずは取り扱って、という発想も段階としては良いかもしれません。

ただ、それだけで将来が描けるのか。

木材生産だけを手段として、森林管理は可能なのか。

これは、林政上の大きな問題であります。

森林・林業行政の最先端のひとつの取り組みと言える香美森林組合の事例からは、現在の計画制度の大きな欠落点が見えてくるように思います。

 

 

いずれにせよ、集約化という方法は、現在の小規模・零細・分散型の森林所有構造の中で林業をし、森林管理をしていくための大きな武器になり得ると思います。

また、プラン書作成という過程も、ここまでかちっとしたことをしないまでも工程管理やコスト管理、マーケティングといった発想はビジネスである以上必要不可欠であると思います。そのようなことが触りだけでも勉強できたのは良かったです。

 

今後より深めたいと思います。

 

 

おいしんご