おいしんごがそれっぽく語ってみた

四国の真ん中、高知県本山町の地域おこし協力隊(林業振興活動員)として活動しています。森林のこと、環境のこと、社会のことなど、日々学んだことや考えたこと、感じたことをそれっぽく語っていきます。

近自然森づくりワークショップに参加してきた

以前からフェイスブックなどで興味を示してきた近自然森づくり。その実践として、近自然森づくり研究会が毎年開催しているワークショップが先日行われたので、参加してきた。

今日はそれのレポートを書いておきたいと思う。

 

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 近自然森づくり協会HP https://kinshizen.jimdo.com/ より

 

近自然森づくりに興味を持った経緯

すべての始まりは1冊の本との出会い。

森林関係のことで多々著書がある浜田久美子さんが2017年に上梓した『スイス林業と日本の森林-近自然森づくり』を読んで、スイスで行われている林業・森づくりの考え方に非常に感銘を受けたからだ。

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http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1541-2.html

 

その後、日本で近自然森づくりを実践しようとしている総合農林の代表の佐藤浩行さんの講演を奈良でお聞きし、もっとこれについて勉強したいと思って、近自然森づくり研究会へ入会した。

 

近自然森づくりについては、浜田さんの同書に非常に詳しく紹介されているのでここで細かくは述べないが、簡単に言うなら、自然のメカニズムを最大限活用し、「収穫が手入れになるような森づくり」すなわち「恒続林」に誘導していくような施業方法である。

これは、自然環境的にも経済的にも有効性の高い森づくりとして、スイスでは実践されている。

 

 

そして、今回のワークショップではスイスで30年近く現場フォレスターとして担当の村の森林と向き合い続けてきたロルフさんを招聘して、岐阜県郡上市石徹白(いとしろ)の森を実際に見ながら、その真髄をご教示いただいた。

当レポートを通して、近自然森づくりとはどんなものかの一端がご紹介できれば幸いだ。

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  ロルフさん 座っているのは近自然森づくりを日本に紹介した山脇正俊さん。通訳もしてくださる。 

 

はじめに注意しておくと、ロルフさんはスイスの森を見続けてきた人である。日本での指導も10年近くになり、指導の際にはそこの森林についての調査もしてはいるが、それを熟知しているわけではないため、「スイスだったら」といった条件付きのものになる。

ただ、考え方や未来の見方についてはどこでも通用するものだと思う。あとは現場人がその考え方に基づいた具体的な施業を行い、それに対する環境の変化を実直に捉え、よくよく観察しながら今後の施業方法を考えていく、というプロセスが必要になる。

ここでも具体的な施業方法のレクチャーもあったが、それは絶対的なものではなく、現場現場で考えられたい旨が伝えられた。

 

午前-皆伐跡地にて

午前の現場は、10年前から皆伐が段階的に続いている現場で、植栽されず放置(更新方法としては天然更新と記載)されている現場。

笹が広がっていたが、その中から広葉樹も育っており、樹高2m近くになるものもある。現段階では、場所にムラはあり、計画的ではない(結果的ではある)にしろ、広葉樹等の天然樹木の更新は起こっているということが言えるだろう。

 

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 モコモコしているのが生えて成長してきた広葉樹

 

まず現場までの林道を歩いている途中、ロルフが立ち止ったので一行も止まった。

「ここに歩いて来るまでにどんなことを感じましたか。」

はじめにそう問うてきた。

 

その日は天気が非常によく、気温も高かったため、少々歩いても汗をかくようなかんじ。しかし、陰のある場所では案外涼しく快適だった。

このように、同じ森の中でも場所によって、または時間によって微細な気象条件は変わってくる。これが、樹木の成長にとても影響する。

微気象の変化、場所場所による条件の変化。それに注意を向けて歩いていってください、といったことがまず初めに伝えられた。

 

 

次に、皆伐跡地に接する林道で話が始まった。

まず樹木の成長に必要な条件として3つが重要という話。

・立地・土壌がふさわしいこと

・気象がふさわしいこと

・他の植物との相互作用

これは、樹木によって好みが異なるため、その好みをきちんと理解して、目的樹種の成長に必要な条件を満たしてやる必要がある。

 

たとえば、ヨーロッパブナを目の前の皆伐地で育てようと思うとどうか。

土壌はよさそうだが、ブナは競争力が弱いため、皆伐地のような成長力の強いパイオニア種がたくさん入ってくる場所では育ちにくい。もしくはそれを育成しようと思ったら非常に多くの手を入れなければならずコストがかかる。

一方で、タモ類はどうか。これは日当たりのよく、湿気が多いところが好きで、競争力も高い。そのため谷地形のところだったら育てられる。そういったところに生えてきているものは、育てる樹種として設定できるだろう、ということが言える。

 

加えて、そこで芽生えが起こったとしても、成長に適した条件とは限らない。樹齢によって好みが変わるため、その変化も利用しながら収穫まで通して要求を満たしてやる必要がある。

たとえばヨーロッパトウヒは、どんな条件でも芽吹くことはできる。しかし、土壌が浅かったり湿地のようなところでは、十分に成長はしない。水がありすぎてもなさ過ぎてもダメで、適湿な場所が好まれる。

発芽条件と成長条件は異なることがここから分かる。

 

このように、製品になるかどうかの判断も必要だが、その樹種の好み、樹種特性や生活史と照らし合わせることで、更新してきた中からどれを今後育てていこうか考えることができる。

 

ここが近自然森づくりの要諦だが、自然のメカニズム、生態系法則に近いことができればできるほどコストは小さくなる、ということが非常に重要な考え方になる。

適地適木とはよく言われるが、逆にある樹種にふさわしくない環境でそれを育てようとした場合、非常にコストがかかる。できるだけ自然の法則に育ててもらうように、その樹種の特性と、立地条件等をきちんと観察する目を身に着ける必要がある。

 

続いて、実際に芽生えて成長している広葉樹を見ながら、今後どのような森づくりにしていくかのレクチャー。

ここで有用な広葉樹を育てようと思った場合、今育てたい木を選抜してそれに労力を注ぐようにしておく(将来木または育成木施業の初期段階)必要がある。

今はまだ若木の集団だが、目的の森林へ誘導するには早ければ早いほどコストは小さくなる。これがどんどん太くなってから、将来木を育てるための手を加えようと思うと、ある程度の大きさの木を伐る作業になってくるし、それによって将来木が傷つく可能性もある。

若木の段階で成長の妨げになる木を除伐しておこうと思えば、ナタで可能だし作業負担、危険性も大きく減ってくる。

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「手入れは早ければ早い方がいい」を説明するロルフさん

 

また、どの作業においても言えることだが、作業を考える際に重要なことはその時必要な最低限の仕事をするということ。

将来木周辺の木は、成長の邪魔をするライバルの木と、逆に木が傾いたり折れたりするのを支えるサポーターとなる木がある。また、将来木の選定の数次第では、将来木の生長に正にも負にも影響しない樹木もたくさんある。作業を最も少なくしようとする場合、将来木の生長にマイナスの影響を及ぼす木のみを除伐することになる。

 

さらに、次回いつ作業に入る予定か、ということも必要な作業を選定するために重要だ。

スイスのフォレスターは担当地域をいくつかに分けて、数年ごとにぐるぐる回りながら、自分の担当森林すべての施業計画を立てている。なので、次回いつ施業に来るかをだいたい把握しているそうだ。

たとえば5年後に施業に入るなら、5年後放置した場合に将来木に影響があるかどうかということが判断材料になる。5年後に手を入れれば大丈夫な作業だったら、それは今は行わない、という考え方になる。

つまり、一般的な人工林施業で行われる、育てる木以外をすべて伐るという考えとはまったく異なるのだ。これは正直、実際にやったことがない考え方だったために、5年後どうなるのかという想像がしにくかった。

ただ、ロルフさんが述べた「スマートに怠け者であれ」という言葉はとても大事だと思う。

  

午後―スギ人工林にて

午後は現場を変え、76年生のスギ人工林へと移った。

ここは6年前に間伐が行われた場所で、今後は近自然森づくりの考えに沿った、天然更新をメインに考えた非皆伐の択伐林-針広混交林へと誘導していくことを検討しているとのこと。

 

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ここでも到着してまずは、観察してどのようなことが言えるかが議論された。

スギ、けっこう大きくなっている。

アカマツも大きくなっている。

下層にはササもあるが、それほど繁茂していない。

下層の広葉樹も伸びているが、道から入る光に向かって傾いている。

林縁部にはスギの稚樹も見られる。

間伐された跡がある。ギャップに大きなブナも見られる。

土壌は黒ボク土。地形はかなり緩やか。

などなど。

 

初めての現場に来たら、「現在どんな状態か」、「過去にどんなことがあったか」、そして、「手を加えなければ将来どうなっていくか」を考えることを再度伝えられた。

 

特に将来について

ロルフ曰く、ここで何も手を加えなければこの森の資産価値は横ばいか落ちていくだろう。

ここで継続的に収益を得ていくためには、価値を高めていくように手入れをしなければならないとした。

 

では、具体的にどのような手を加えるか。

ここで参加者に質問。

「ここで間伐するなら、スギの何パーセントの間伐が適切でしょうか?」

3択で、20%、30%、40%、それぞれに参加者に挙手を求めた。

一番多かったのは20%だったが、他2つにもいくつか手が上がった。

 

ロルフの答えは、どの答えも正しくない、だった。

ひっかけでした(笑)とのこと。

 

そして間伐、択伐において、その割合は数値で決められるものではない、ということが強調された。

生き物が複雑に関わっている森を扱う上で、何%と数値で決めるのは不適切だ。選木をする際も数値を優先して、足すとか減らすとかいうことをスイスでやることはない、ということらしい。

 

スイスでは木材生産に対しての補助金は廃止されている。日本のように間伐率が3割満たなければ補助金が出ない、ということはない。そのため数というよりは、森自体にとって最も良い選木、伐採量がその都度考えられる。

もちろんそれが結果的に3割や4割になる場合もあるだろう。しかしそれはあくまで結果的な話で、数字在りきのものではない。

補助金という行政的要素が入ってくるとどうしてもそうならざるを得ない。このジレンマは日本の現場でもよく聞かれることだ。

補助金のためにはもう少し伐らなければ。」

補助金に頼らなくてもいいなら、自分なりの森づくりができるのに。」

 

あくまで森をどうするか重視の近自然森づくりの考え方がここでも示された。

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選木の仕方としては、ここを複雑な構造の森にしたいなら、一律な選木をしてはいけないとのこと。

現在、下層に広葉樹の若木が育っていて、2層構造のようになっている。しかし、継続的に収穫できる、恒続林を目指すなら、より多層構造にして、より樹齢の複雑化が必要だ。

そのためには、明るい場所と暗い場所のコントラストを作って下層広葉樹の生長環境に区別を作る必要がある。そうやって、段々と構造の複雑化を促していく。

 

スギの選木に際して、どのような木を伐ればいいか。

基本的には、太くて材質の悪いやつを伐る。そのまま置いておいてももっと悪くなるだけだからだ。

それに細い木も太い木も出材するコストは大きく変わらない。太い木を伐ることで、コストに対して作られるギャップは大きくなるから得だ、とした。

ただ、伐りすぎは絶対してはいけない。足りないと思ったら伐り足しはできるが、伐りすぎを戻すことはできない。

「森の変化はできるだけ小さく」が原則とのことだ。

 

また、この選木も安定性のない森、たとえば形状比が大きい木(胸高直径に対して樹高が伸びすぎている、いわゆるもやし林)とか樹冠長が短い木(重心が高くバランスが悪い)とかでは、異なる考え方になる。

 

近自然森づくりにおいて、なによりも重要なのは森の「安定性」だ。

どれだけまっすぐで質のいい木が育っていても、台風などでやられてしまったら元も子もない。災害や病気に強い安定した森でなければ、継続して収入は得られない。

そのため、不安定な森ではその安定性を高める施業がなにより優先される。

 

間伐の考え方としては、そのなかでもできるだけ安定性の高い木を残して、それを育てるような間伐がよいとのこと。

このように、一概にこのような木を伐るということではなく、あくまでもその森の状態に合わせて、継続的に収入が得られるような森にするためには何をする必要があるかということが考えられることが、近自然森づくり、恒続林への誘導において重要だ。

 

 

 

最後に、ここで語られたロルフさんの目指す森づくりについて書いておきたい。

ここまで書いてきたように、ロルフさんが目指すのは継続的に収入が得られる森づくりだ。

数世代にわたって、どの世代も同様によいクオリティの材が得られ、同様に収入が得られる森。それもどの世代にもコストが偏らないものがよい。

そんな森づくりを機能させるための条件が3つある

  • 食害がないこと、天然更新した新芽が食べられないこと
  • 路網が整備されていること
  • 半陰樹・陰樹を対象として施業すること(陽樹を使わないということではない)

商品になるような胸高直径になったものを収穫すると同時にギャップを作り、生えてきた広葉樹から有用な樹種を選抜してさらに育てる。こうして「手入れと収穫が同時に行える森づくり」は続けられるという。

 

また、補助金からの解放ということも述べられた。

補助金については、改めて別稿にて持論を述べたいが、補助金に頼ることで望み通りの森づくりができないということは上でも述べた。そのためにも補助金に依存しない施業、それだけの経済的価値の高い森づくりを目指す必要がある。

 

 

以上、ワークショップの振り返りを書いた。

しかしここで書かれたことでロルフの述べたすべてを書いたわけではない。字数が増えすぎるので省いたものもあるが、ご容赦いただきたい。

 

まとめにかえて

近自然森づくりは、これまで行われてきた一斉人工林施業とはまったく異なる考え方だということが多少なりとも伝わっていれば幸いだ。

ただ注意が必要なのは、近自然森づくりは具体的な施業方法を示したものではないということだ。近自然森づくりは、あくまでそういう森づくりの考え方を示したものであり、一元的にこのように施業しましょうというものではない。

確かに、それは天然更新を更新方法の主軸に、択伐を生産方法の主軸に置いている。しかしそれは、環境にもよく収入も得られ、森を持続的に森としてあり続けさせる施業方法を考えた結果的なものである。

 

地域や森林によっては天然更新が可能でない場所、また収入となる材が得られない場合もある。そうしたところに、従来型の一斉人工林の考え方、造林方法も入ってくるかもしれない。地域によって成立する森林の形は多様であり、だからこそ施業と観察を繰り返しながら、その地域・森林に沿った施業が考えられなければならないだろう。

 

 

さて、ここから考察が続くわけだが、幾分文章量が増えたためとりあえずワークショップの報告ということで、ここで締めておきたい。

また、別稿においてまとめや自分の考えたことは書きたいと思う。

 

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野生のキツネがいました 

 

 

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