おいしんごがそれっぽく語ってみた

四国の真ん中、高知県本山町の役場で林業担当をしています。森林のこと、環境のこと、社会のことなど、日々学んだことや考えたこと、感じたことをそれっぽく語っていきます。

森林管理と鳥獣捕獲-コーディネーター研修を受けて

先日、野生鳥獣対策連携センターさんが主催する鳥獣被害対策コーディネーター育成研修に参加してきました。

 

森林管理、森づくりにおいて獣害対策、特にニホンジカ(以下、シカ)対策は大きなキーワードになっています。

ただ、森林・林業の勉強していてもなかなかまとまった獣害対策の知識や実践的知見を学ぶ機会ないなーと思っていました。

そんな時に見つけた、本研修。とても大きな発見と学びがありました。

 

本研修は前半と後半に分けられていて、今回は前半を受けてきたので、そこで学んだこと、感じたことなどを中心に語っていきたいと思います。

 

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 (本研修に倣い、以下で述べる鳥獣被害はシカによる被害を指すものとします。)

 

シカは森林に対しても非常に大きな被害を及ぼす

林業が「利用の時代」だと言われるようになって数年がたち、皆伐―再造林が各地で推進されています。

同時に、再造林地において獣害、特にシカの被害が目立ってきており、シカ防護対策を講じることが再造林とセットになってきているのは多くの方がご存じでしょう。

 

しかし、再造林地に限らずシカの森林に対する影響というのは広く、強いということをいまいちど確認しておく必要があります。

 

シカによる森林被害というのは3点にまとめられます。

1.嗜好性植物の採食による生物多様性の低下

2.後継稚樹の採食による森林の更新の阻害

3.下層植生の減衰による土壌流出や斜面崩壊の促進

 

人工植栽地の被害は2点目のものに含まれますが、これは人工植栽に限らず天然林でも大きな問題になります。高齢級の天然林の下層に植物がなくて更新が進んでいない、という状況はあちこちで見受けられる被害です。

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頂芽が採食された植栽木。成長が阻害され、食害を受け続けると盆栽上になってしまう。


また、木材利用の側面だと若芽の採食による成長阻害のみでなく、樹皮剥ぎによる材質の悪化や枯死といった被害もあります。 

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樹皮剥ぎを受けた個体。幹一周が剥がれると枯死する。

 

こうしたシカによる森林被害を全体としてみると、再造林地のみがシカの被害を受ける場所ではなく、天然林や壮齢林も含めた森林全体が被害を受ける可能性があるということがわかります。

 

 

シカはとにかく増え続ける

シカ対策を考えていく上で、シカという動物にどういった特徴があるのかを知っておく必要があります。

シカの生物的特性として、特筆すべきはその食性繁殖能力です。

 

食性としては、適応能力が高く何でも食べるということが言えます。

シカは草食動物ですが、食べる植物にも好き嫌いがあります。嗜好性、不嗜好性植物と呼ばれています。

そのため、シカがそれなりに多い地域では嗜好性植物が少なくなり、不嗜好性植物ばかりの生物多様性の低い森になってしまいます。

しかし、さらにシカが増えてきて不嗜好性植物しかない状況になると、不嗜好性植物さえも食べてしまいます。もっと増えてきて下層植生が全然ない状況になると、落葉さえも食べて生き永らえようとします。

 

繁殖能力としては、エサの質・量が落ちても繁殖能力が落ちないということが言えます。

個体数が増えすぎてエサが乏しくなってしまっても、変わらず毎年1頭ずつ産み続けるようです。

自然と想像するとエサが乏しくなってくると子供を産む能力は落ちて、数が減るように思われます。これがいわゆる密度効果というやつで、増えすぎると環境が悪くなって数が自然と減る、という作用です。

しかし、シカの特徴的な食性と繁殖能力によって、こうした密度効果というのがなかなか働きづらく、高密度状態を保ちやすい動物であるということが言えます。

 

個体数が増えるとその被害が大きくなる、というのは自明の理でしょう。

 

 

防護のみでは限界がある

森林分野の獣害対策というと、これまではほとんどが防護という対策に偏っていたのではないでしょうか。

すなわち、人工植栽地全体をネットで囲む対策だったり、植えた木一本一本にチューブのようなものを被せて防護するような対策だったりです。

 

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獣害防護ネット設置実習

前者をゾーンディフェンス、後者を単木防護(マンディフェンス)と呼ばれます。

また、ゾーンよりももう少し小さい面積(数㎡)の複数のエリアをネットや策で囲うパッチディフェンスという方法もあります。

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単木防護によく見られるチューブ。三好市皆伐地で撮影

防護したいものの状況や面積などに応じて使い分けるのですが、どれにも一長一短あり、またどれも完璧に守ることができるというものではありません。

 

自分もシカ防護ネットを張って植栽を行ったことがあるのですが、植えた1年後に見に行ったらネットに穴が開いていて、そこからシカが入ったのか植えた苗はほぼすべて消え去っていました。気持ちいいぐらい何もなくなっていました。

 

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自分たちが設置したシカ防護ネットの破れた部分。

 

ゾーンディフェンスだろうが、単木防護であろうと、きちんと機能させようとすると設置後の定期的な見回りと修繕が不可欠です。シカの密度が高ければその必要性はより高まるでしょう。

 

 

植栽現場に頻繁に通えるような状況なら何とかなるかもしれませんが、見回りのためだけに訪れるというのは非常にコストのかかることです。

ただでさえ再造林と育林コストが森林経営をひっ迫させているというのに、獣害対策のコストがさらにかかっていては、経営の厳しさはさらに増すでしょう。

 

こうした防護策のコスト面を考えると、改めてこういった状況で皆伐―再造林を推進するのは妥当なのか疑わしくなります。

 

 

以上見てきたように、方法的にもコスト面を考えても防護のみでの対策には限界があります。今回の講義でも強調されたことは、獣害対策を効果的にさせるには防護と捕獲の両輪で進めていかなければいけない、ということです。

 

前述したようにシカは直接的に個体数調整の機能が働かないとどんどん増え続けてしまします。そうなればなるほど防護の効果というのは薄まってしまいます。

そしてそれは人工林、再造林地だけに限った話ではなく森林全体にまで広がる被害になります。

 

以上のようなことを考えていくと、適正な森林管理のために、森林分野の人間も個体数調整・捕獲という手段をきちんと知って、森林の管理方針や計画に、シカの個体数調整をどうしていくかということを盛り込んでいく必要があるということわかります。

ドイツの森林官が狩猟免許取得が必須なのも、なんとなく納得できました。

 

 

森林管理側も個体数管理、捕獲の知見が必要

以上まとめると、森林管理側もシカ対策として防護だけに限らず、捕獲の視点を持って鳥獣害対策行政や狩猟者と連携していこう、ということになります。

 

具体的には、市町村森林整備計画や個別の森林経営計画の中で、対象となる地域・エリアの中のだいたいのシカ生息の現状を把握し、必要であれば捕獲計画や防護計画を盛り込んでいくということになろうかと思います。

一市町村の中でも、地域によって生息状況というのは変わってきます。実際、私の町は真ん中を通っている川を挟んで南部は少なめ、北部は増えてきているという状況です。同じ市町村内でも地域ごとに異なった対策が必要だし、場合によれば連続した地域で市町村や県の境を超えて連携が必要な場合もあるかもしれません。

 

まずは何より自分の関わっている地域にどういった捕獲計画が立っているか、シカ生息密度がどれぐらいなのか、毎年の捕獲数がどれぐらいなのかぐらいは調べたいと思います。

 

さらに計画にとどまらず、現場レベルでも林業者が狩猟者の目を持つことはとても役立つことだということがわかりました。

 

捕獲の面から言うと、林業者のシカ目撃情報というのが捕獲を行う際の貴重な情報となるということです。

毎日仕事で森林に通う林業者は、日常的にシカを目撃します。また、直接見かけなくても糞や食痕、足跡などの痕跡を見つけることもあるかと思います。

その地域で捕獲事業を展開しようとしたときに、地元の狩猟者に限らず林業者からのそうした情報が得られればより効果的に捕獲を行えるのだそうです。

 

また、森づくりの面からも狩猟者の目を持ち、動物の行動を読むことは役立つように思います。

シカが高密度であることが認識できれば、例えば再造林する際も獣道を避けるようなブロックディフェンスなどのように防護方法を工夫したり、見回り回数を増やしたり、場合によっては皆伐を見送るという大きな計画を行ったりといった判断ができるかもしれません。

将来木のような特に守りたい樹木個体があれば、単木的に防護するという選択もあり得ます。

 

実際に狩猟を行わずとも、狩猟者の目も持って森を見ることができ、狩猟者と連携をとれるような林業人が増えてくればいいなと思いました。

 

 

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以上、今回学んだこと、感じたことを語ってきました。

獣害対策についてまとまった勉強がしたいなーと思っていたところで受講した当講座ですが、思っていた以上の学びがありました。

 

実際、森林・林業行政と鳥獣対策行政は縦割りなかんじ。県の担当部署も課より上の部のレベルで違います。どれだけ連携取れてるのかなー。

 

そして私個人としても、林業は森林が好きな人、狩猟は動物が好きな人が入っていく世界で別物だ、という意識がありました。その壁のようなものを取っ払われることになったので、大きな変化をいただいたなという感覚です。

 

また、講師の方は実際に長く狩猟に関わっておられる方で、自らの経験を踏まえて狩猟の奥深さを語ってくださりました。見聞きしただけなので、その表面を覗いたぐらいなのだと思いますが、これは想像通り奥深すぎる世界だなあと思わされました。

 

狩猟を実践する人間になるかはわかりませんが、とりあえず罠の免許ぐらいは取ってみようかなという気持ちです。

あと地元の狩猟者さんとのつながり作りたいなとも思いました。

 

 

1月には後期もありますので、さらに勉強を進めていきたいと思います。

ありがとうございました。

 

 

おいしんご