現在、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、人々の生活は大きく変化し、全産業的に大きな影響を及ぼしています。それに伴って、現状をどう乗り切るかと同時に、「コロナ後の社会」などのキーワードでコロナ禍が収束したのちに迎える社会について様々な議論が行われています。
もちろんその影響は林業分野にも少なからず出ています。
たとえば私の地域でも、製材所が止まり、そのため材が動かかなくなり、森林組合の経営する共販所(市場)が材の受け入れをストップさせています。材価に関しては今のところ目に見える影響は出ていませんが、すでに下落している地域もあるようで、私の地域もいずれは下がってくると思われます。
このような状況下で、林業分野に対してはどのような対策が必要になってくるだろうか。
今回はこういった問いに対して、市町村行政という立場を中心に考えてみたいと思います。
国の支援策
国が林業分野が活用できる支援策については、HP上でまとめられています。
「林業・木材産業者が活用できる支援」
https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/attach/pdf/support-147.pdf
新型コロナウイルス感染症で影響を受ける林業・木材産業関連事業者の皆様へ:林野庁
林野庁独自の具体的策としては、需要を喚起する施策、滞留する輸出向け原木に対する支援、滞留する大径原木の需要を促進する策、そして資金繰りの支援としての金融支援策の4つということになります。
個別の事業者の経済対策となるのは他産業と同様、経済産業省の持続化給付金がメインとなるようです。
また、林業とは少し異なりますが、内閣府では、「新型コロナウィルス感染症対応地方創生臨時交付金」というものを用意されています。
新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金 - 地方創生推進事務局
地方公共団体(県、市町村)に直接交付される交付金で、各地方公共団体がコロナウィルス感染拡大や感染拡大の影響を受けている地域経済や住民生活への支援に対して行う事業に対して使ってえるお金になります。
これも、産業支援という面で利用できれば林業分野への支援にも使うことのできる財源といえるでしょう。
このように国レベルでは、様々な経済支援策が用意されています。
では、現場サイドにはどのような対策が想定できるでしょうか。
材を動かさない仕事の創出
上述した通り、現状の大きな特徴は材(製材品も丸太も)が動いていないということだと思います。聞いた範囲では、中国を含めた国際的な物流の停滞によって、多くの工事がストップしてしまって、木材に対する需要も波及的に圧迫されている、ということがあるようです。
九州などの木材輸出地域はより直接的に、輸出先の国(多くは中国)が受け入れをストップしているために、輸出量が減少しているということもあるようです。
「林政ニュース」(627号、628号)で、コロナの影響についてのルポ記事では、住宅産業への需要減、製品価格と取扱量の減少、材価の下落と素材生産量の縮小が連鎖的に起こっている様子が示されています。
こうした、材が動いていない状況では、やはり山側も材を動かす事業をストップせざるを得ないと思います。無理に生産して、たとえば遠くの空きのある市場に運ぶということは、非効率であると思います。巡り巡ってそれは山主への還元金額の減少を招いてしまうでしょう。
こうした状況下では、材を動かさない仕事、より公共的な事業を創出し、林業技術者の技術と機械資本を活用させることを考えることがよいと考えます。
これから夏にかけては下草刈りの季節になるため、これまできちんと行えていなかった新植地で下刈りを行えるよう労働配備を行ったり、また、造林の分野で言えばコンテナ苗であれば真夏を避ければ植栽が可能なため、これまで植栽が行えていなかった未植栽地で植栽を行ったり、獣害対策ネットの設置に人員を割くことができると思います。
また、事業体にとっては、機械が動かなくなることが損失になるということも想定されます。
そういった場合に対して、必要と思われながら手が付けられていなかった、林道や作業道の新規開設、または修繕・改良といった分野に人員を配備することも考えられるでしょう。
私の地域で言えば、一昨年の豪雨の際に多くの林道・作業道が崩壊する被害を受けているが、他の部分で素材生産事業に人員を要するために、手が回っておらずもうすぐ3年になろうとしている現在でも崩壊したままの状態でいる場所が少なくありません。
そうした崩壊地や荒れてしまった路網の修繕に人員と予算を割いて、コロナ後材が動き始めたときにスムーズに素材生産事業に移ることができるような状態を準備しておく必要があると思います。
また、それを実行する際は現状回復だけでなく、昨今叫ばれている異常気象の発生、雨量の増加、集中豪雨の頻発に備えて、排水機能の改善も同時に考えられたいです。そういう意味でも、コロナ後に向けた林道・作業道の修繕・改良はコロナ禍における重要な事業対象となりうるでしょう。
さらに、作業道開設に関しては、開設時に出る支障木の売り上げと解説補助金でペイしている場合が多いと思われます。しかし、材が動かない現状において材の売り上げには期待できません。そこに対して、支障木売り上げの損失に対する補償というメニューも用意しておく必要があると思います。
こうした事業創出は既存の国や県の補助金で十分対応可能なものもあるかと思います。また、去年度から始まっている森林環境譲与税などもこうした事業創出に柔軟に活用できる予算になろうかと思います。さらに、上述したような「地方創生臨時交付金」も上乗せすることでより事業展開に広がりを作ることができるかもしれません。
「林政ニュース」(628号)にもあるように、まさに「林業版のニューディール政策」実施が強く望まれます。しかし、ただ仕事を作るのではなく、コロナ後の将来につながるような意味ある事業展開という視点も欠かすことはできません。
川中・川下への支援
また、市場や製材業、工務店といった木材産業側への支援ももちろん必要だと思います。これらはこれらで、特有の問題があり、それに対応する特有の対策があると思われます。
私は、こちらの分野の具体的な話を耳にしていないので想像に及びませんが、川上分野と同様に、当事者、事業者との対話の上に効果的な対策が練られることが望まれます。
コロナウィルス感染拡大に伴って新たな需要が生まれているのも確かだと思います。
たとえば「林政ニュース」(628号)に掲載されていた事例では、家具・内装材メーカーの「帝国器材」が木材を利用した「飛沫防止用パネル」を製造し始めたというものがありました。
また、「南都木材産業」がひのきのカンナくずで作った「ひのきマスク」を販売し始めたというのも、大変興味深かったです。
私の地域で言えば、「ばうむ合同会社」が自宅で作れる木工キットを販売しています。ステイホームが合言葉になったという流れに対応して、家族が家で簡単に木工できる商品を開発しています。
こうした新しい流れもどんどん後押しできればいいなと思います。
労働人口構造の変化に備えて
コロナ後の未来を考えたときに、コロナの影響によって多くの失業者が発生することが想定されます。
林政ニュース(628号)においては、リーマンショック時の大量失業と失業対策としての「緑の雇用」事業という過去の流れを踏まえて、コロナ後にも林業分野が失業者の受け皿になるだろうと述べられています。
長らくの人手不足の減少という問題を抱えていることを考えると、こうした未来に対して準備をしておくことは林業分野に限らず大変重要だと思います。
さらにそれは、間違いなく行政が中心になるべきだと思います。今一度新規就業者獲得策を見直し、新しくて積極的な策を練って準備しておく必要があると思います。
具体的には、緑の雇用に上乗せする形での直接的、金銭的支援をしたり、新規就業者の安全レベルを高めるための技術教育支援プログラムを作成したり、また移住者も想定するとなると生活支援として住居の準備をしておくなど、林業分野を超えた受け入れ策を、これまでやってきたことであっても改めて考えておく必要があると思います。
まとめ
いずれにせよ、影響の形は地域、事業種、事業体ごとに異なります。
そのため多様なニーズに対して、柔軟できめ細かい対応、支援が必要なことはいまさら言うことでもないと思います。
そして、そうした柔軟な対応ができるのはやはり市町村行政であると思います。まずは、各事業者に話を聞いて、地域の具体的な課題を抽出することが必要だと思います。当たり前すぎることだけど、だからこそ確実で必要不可欠なことだと今回こういったことを考える中で改めて感じました。
各地域の被害状況なども、ぜひとも聞かせていただければ幸いです。
おいしんご
※参考資料
日本林業調査会発行「林政ニュース 627号」(2020/04/22発行)、「同 628号」(2020/05/13発行)