おいしんごがそれっぽく語ってみた

四国の真ん中、高知県本山町の役場で林業担当をしています。森林のこと、環境のこと、社会のことなど、日々学んだことや考えたこと、感じたことをそれっぽく語っていきます。

地域おこし協力隊3年間を振り返る

 

高知県本山町にて地域おこし協力隊(林業振興活動員)としての活動の3年間が無事終了しました。なんとか3年間全うできたことを、大きな安心として感じています。

今日は、この3年間を振り返って感じていることを書いていこうと思います。

 

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何よりも、無事故で3年間を終えられたこと

ご存知の通り(かどうか分かりませんが)、林業は全産業の中でもっとも危険な産業だと言われています。人の力ではどうしようもない木材というものを扱い、しかも急傾斜で不安定な森林の中で行われる林業は、一般的に3K(危険、きつい、汚い)と言われるような仕事であることは認めざるを得ません。

その林業に携わって、たった3年間ですが大きなケガになるような事故を起こすことなく終えられたことは当たり前のようでやはりきちんと自分を褒めたいことだなと思います。

 

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協力隊なりたての時に入った切り捨て間伐の現場では身体が悲鳴を上げた

 

もちろん、その中でも小さなケガや、ひやっとしたこと、モノを壊す事故(チェーンソーを重機で踏みつぶしたり、重機をぶつけて動かなくさせたり)ということはあったわけで何も問題なかったということではありません。こうしたことが起こるという注意力不足は、重大事故につながりかねないことですので、自戒しなければいけないことだとは思います。

とはいっても、やはり3年間労働災害と言えるような事故が起こらなかったことは、協力隊として活動する上でもなによりも重視すべき目標であり、それが果たせたということはとりあえず目標達成と言っていいと思っています。

と同時に、林業に終えて安全に一日を終えるということがどれほど難しいか、現場の方々がそういうことにどれだけ神経をとがらせているのか、ということを強く実感できた3年間だったと思います。

日々、安全に対して注意喚起をしてくださった役場の上司や現場で自分の不注意があったときに厳しく言って気を引き締めてくださった方々に改めて感謝したいと思います。

 

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間伐作業中

本当の学びが始まった

この3年間において、自分の森林・林業に関する学びは本当に幅広く深いものだったと思います。学生のころは机上のものや基礎的なもの(それらの重要性も今となっては分かります)が多く、想像すらできないような概念の中でひたすら言葉をこねくり回していたように思います。

 

そこから飛び出して現場にやってくることで、本や論文の中にあった言葉や考えのひとつひとつが具体的な形となって浮かび上がってくるような感覚を得ることができました。

 

本を読んでも、自分が実際に働いた現場のこととリンクしながら考えることができる。

事例について聞いても、自分の住む地域と重ねたり比較したりしながら考えることができる。

そうして見聞きするものに自分の経験を重ねて具体的に考えることができるようになったように思います。

 

さらにそうした中で、自分の前に実際に差し迫ってくる課題たちが存在してくれることで技術的なものも含めて学びが必要に迫られるものになる。「○○のため」の学びになるということで生まれる吸収力と真剣さの学生のころとの大きな違いを感じることができました。

 

そうした意味で、「大学を出てから本当の学びが始まった」という気がしています。

 

大学で森林科学を学んだからと言っても、現場に出て実際に森と対面すると、自分の勉強不足を痛いほど感じてきました。ただ、それは学生のころのように何ができなくて何が分からないのかも分からないような状況ではなく、具体的な問題に対しての欠如感だということも気づきつつあります。あとはそこを地道に埋めていくだけです。

だからこそ、もっともっと勉強して、また行動していろんな面での技術と感覚を磨いていかないとなと思います。

 

 

現場との共通言語の獲得

協力隊になって現場で働くようになってから、「大学での学びと実際の現場での経験を比較してどう感じますか?」といった類の質問を何度もされてきました。特に大学の後輩などは現場について知らないことが多いので、聞いてくることが多かったです。

 

こうした質問に対して、自分の中でもきちんと考えることができることができておらず、はっきりとした答えを用意できずにいました。学問の世界で話されたり考えられたりしていることと、現場で話されたり考えられたりしていることには次元が違う(どちらが上とか下とかではなく)と言ってもいいほどのギャップがあって、それをどのような形で繋いで、比較して、語ればいいのか、すごく難しい問題でした。

学問の世界は、不特定多数の人に理解してもらえることを目的としてそのような言葉で理論が語られる。

それに対して現場の世界は、すごく職人的な要素が強く、あくまで「何かができるか」という技術と成果のみが求められます。どれだけ上手にできるか、どれだけ速くできるか、どれだけたくさんできるか、どれだけ綺麗にできるか。

 

自分はまだまだ学問の側に重心のある人間だと思っていますので、学問の言葉で現場について考えようとしてきましたが、その異次元さに戸惑いを感じてしまいました。

同時に、現場の側からは「大学で学んできた人間だから」という視点で見られるのですが、もちろん現場作業については何も知らないも同然なので、大学での学びは何だったんだろうと打ちのめされたのを覚えています。

 

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協力隊二人で間伐した現場

そうしたものを感じながら3年間現場に通うことで、直接上記の質問に答えるものではないではないかもしれませんが、ひとつ得たものがあるなと思いました。

 

それは「現場との共通言語」です。

上でも述べた通り、現場で話されたり考えられたりすることは学問のそれとは大きく異なるものだと思っています。同じ日本語で話されていても、言語が違う(今のところこれ以上のいい表現がないのが悔しい)と感じています。

その異言語とも言える現場の言語を、3年間林業現場をこなすことで、少なくとも理解するぐらいはできるようになったのかなと思います。

 

現場でどのような作業が行われているのか、その中にどのような苦労があるのか、どのような危険が含まれているのか、どのような喜びを感じているのか、といった肌感覚を想像できるようにはなったのかなと思います。これのお陰で、自分が作業に入らずともある現場の作業を見聞きすることがあれば、現場の方々と同じ視点で想像できるんじゃないかと思います。

 

そういった現場との共通言語を得たことは、今後自分が管理・計画の側で働いていく上でも、非常に重要で大切になことだろうなと思います。

 

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過酷な真夏の下草刈りも経験した

 

「近自然森づくり」との出会い

協力隊になってからさらに学びが幅広く深くなったということを述べましたが、その中でも特に大きなものが、このブログでも度々書いてきた「近自然森づくり」との出会いです。

 

過去の近自然森づくりに関する記事は以下のようなものになっております。

oishingo.hatenablog.com

 

oishingo.hatenablog.com

 

 

自分が目指す大きな目標として「学問と現場を繋ぐ」というものがありますが、それの具体的な形として科学的なエビデンスを持った森林管理が必要だと思っています。

そういう想いに対して、近自然森づくりは本質的な議論を提供してくれる場だと思っています。

 

近自然森づくりに具体的な森林管理や施業に対する答えはなく、あるのは原則のみで観察を重視しながら現場現場で考えていくことが求められます。時には制度や市場など社会情勢も考慮しながら、あくまで現実的にことを動かしていく。

原理主義的に、これがいい、これはダメというものがないので、難しいことではあるのですが、柔軟に考えることもできる。そういう点が信頼できる部分でもあります。

 

また、近自然森づくり研究会が主催するワークショップなどのイベントでは全国から近自然森づくりに興味のある方々が集まります。現場の方や行政の方、民間の森林管理に携わっている方から、林業とは少し違う形で森林と関わっている方々まで幅広いジャンルの参加者がいます。そうした方々と個人の話やそれぞれの地域の話などかなり深い話ができ、多くのアドバイスがいただけるので、とても貴重な場だなと参加するたびに思います。

今後も、こうした機会には積極的に参加し学んでいきたいと思います。

 

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2019年7月 飛騨ワークショップ

 

自分は学生のころから「自伐型林業運動」に興味を持って、色々調べたりそれに関する方々のお話を聞いたりしてきました。

今でもそれの評価する部分(林業から派生している観点も含めて)を感じていますが、一方で若干原理主義的で柔軟性に欠ける点があるのも感じています。

 

そういう違和感に対しても応えてくれたのが、近自然森づくりだったように思います。

もちろん近自然森づくりになくて自伐型林業運動にある観点というものもあります。どちらも現行の林業のあり方に不安や懐疑を持っているという意味では共通しているので、両方の考えを良いとこ取りしながら自分の地域の森林管理に活かして行きたいなと思います。

 

 

たくさんの人々の中で過ごした楽しく豊かな日々

以上主に仕事、林業に関することを書いてきましたが、それ以外にも地域のイベントや地元の方々、特に若い人たちとの関係づくりは意識的に行ってきました。

 

地域活動としては、消防団に入団し、操法という競技に出場。3年目には、町大会を勝ち抜き嶺北大会(3町1村の大会、優勝すれば県大会出場)に出ることができ、2位になることができました。これがどれぐらいすごいのかは関係者しか分からないと思うので何とも説明しようがありませんが、こうした操法大会への出場やその他の出動に際して同じ消防団の方々とつながりを作ることができました。

移住者であろうとあたたかくむかえてくださったことはありがたいです。

 

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嶺北大会2位受賞

また、高知のお祭りと言えばよさこいですが、地元のよさこいチームにも参加しました。

よさこいに出場した際のことはブログでも書いたことですが、ここでも地元の方々、特に若い人たちとたくさん知り合うことができました。短い期間ですが、苦しくも楽しい日々を共にした絆は強く、今でも飲み友達のような関係ができたことはたいへん嬉しいことであります。

本山さくらで踊った夏 - おいしんごがそれっぽく語ってみた

 

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また、ぼくの町の地域おこし協力隊は役場の中の一員として扱ってくれるところがあって、そのために役場として行われるイベント事にもお誘いいただき、そうした中で役場の方々とも親しくなることができました。同世代の職員さんの中では一緒に飲んだり遊んだりするような友人も作ることができました。

 

その他、地域の運動会やお祭りなどにも積極的に参加することで、新しい出会いもありながら、より仲を深めることができたように思います。

 

そしてなにより、協力隊の仲間たちとの繋がりは 欠かすことができません。

協力隊としては珍しく?自分の前後の協力隊は若い人たちが多く、よく飲み会を開いては仕事のことやプライベートのことをざっくばらんにお喋りできる、本当にいい友人でありました。協力隊の仲間たちとの楽しい日々はこの3年間の大きな支えであり、卒業後も特別な存在として続いていくだろうと思っています。

 

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協力隊の仲間たち

この地域に将来も住んでいこうと思ったときに、同世代の知り合い、友人の存在というのは絶対必要だなと思っていたので、こうしたつながりが3年の間に作れたことは本当に喜ばしいことだなと思います。

 

 

そして、これから

協力隊卒業して、新年度からですが、引き続き本山町役場でお世話になることになりました。

立場としては「会計年度任用職員」という、いわゆる臨時職になりますが、林業に関する業務を専門に行うポジションとして置かせていただくことになりました。

 

主には、去年から始まっている「森林経営管理制度」や「森林環境(譲与)税」に関して、森林所有者に対する意向調査や森林現況調査といったことが業務の中心になるかと思います。役場に籍を置きながら、森林組合さんと一緒に業務を進める、役場と森林組合とのつなぎ役のような役割としても動くような形になります。

まだまだどのような仕事内容で、どのように進んでいくか分からないところで、4月から不安でもあり楽しみでもあります。

 

業務内容や待遇については正直満足できるようなものだとは言い難いですが、今の自分とこの町の現状を考えたうえで、一番納得いく選択だったかなと思っています。

ということで引き続き本山町で住んでいくことになります。

また、副業も可という雇用形態になったので、バイト的に林業現場作業を続けていこうと思っています。

 

 

とりあえずは目の前の与えられた仕事をきちんとこなしていきながら、3年後に夢見る妄想を現実のものとするべく動いていこうかなと思います。

 

改めまして、3年間で関わった多くの皆様のお陰で充実した3年間を過ごすことができましたことを、深く感謝したいと思います

今後ともおいしんごをよろしくお願いいたします。

 

 

おいしんご