もう二カ月近くも前のことになってしまいますが、9/25~28の4日間、尾鷲の速水林業さんのフィールドで開催された林業塾2019(主催は森林再生システムさん)を受講してきました。
今回は、その振り返りとそこでの学びについて書いていきます。
林業塾は、日本の先進的林業経営者である速水林業さんの大田賀山林をフィールドとして、2004年から毎年行われている講座で、今年で16回目になるようです。
この講座のなによりの魅力は、多くのそうそうたる講師陣で、林野庁の方から現場関係者、研究者、また木材業界・建築業界の著名人など、森林・林業・木材産業に関わる幅広い分野のトップランナーを集めて、4日間入れ代わり立ち代わり講義していただくという、オムニバス講座のようなものです。
今年のテーマは市町村の森林に求められること、ということで、新しい制度としての「森林経営管理制度」や「森林環境譲与税」が始まった今年に、市町村という立場がどのような役割を持っているかなどをメインに講義が行われました。
講師陣とプログラムに関しては、以下のから見られます。
以下では、ここで学んで考えたことを4点について書いていきたいと思います。
①市町村における森林・林業行政について
市町村の林務行政に関しては、事例としては豊田市の鈴木春彦さんの行ってきた施策が述べられましたが、林野庁の方からの概論的な内容が多かったように思います。
市町村の役割と期待が非常に大きくなっており、「巨大化」とも表現できるような状況になっていると思われます。ポジティブに考えれば、地域の実情に即した独自の林政が展開できる制度的可能性は開かれたものの、やはり体制的にも専門性的にも「脆弱性」は克服できておらず、権限の高まりに困惑する市町村の姿が調査結果によって浮き彫りにされました。
こうした政策的な要求の強まりの中で、各市町村がどのように独自の取り組みを展開していくのか今後注目される、というような内容にとどまったように思います。
どれだけ理論や理念が語られても、市町村が動かないとことが始まらないんだという、極端に言ってしまえば「市町村頑張ってよ」というエール以上に送られるものは無かったというのが率直な感想です。それはまあ当然のことなのかもしれませんが。
こうした制度・予算的エンジンを上手に活用していく市町村とできない市町村とで林政展開の活性度に大きな差が今後生まれてくるわけで、今こそ本気で市町村の中から地域林政を変えていかなければいけないという想いを強く持ちました。
②森林経営努力としての独自販路の拡大
速水林業の取り組みとして、一番興味を惹かれたのが、牡蠣養殖用のいかだ丸太として小径木に高付加価値化している売り方でした。
いままでパルプ材にしかなっていなかったものに新しい売り先を確保することで大きな価値を付けていました。売り先は近隣から、カキで有名な岡山や広島にも出荷されていました。
また、それまで4面無節の柱材生産を得意としていた尾鷲ヒノキでしたが、需要の変化によってそれが全然売れなくなってきた。そうした変化に対して、無節材を板材や家具材として利用するように製材側とも協力して売り方を変えてきたというものもありました。より新しい需要に対応するために、川下と協力して有利な販売方法を考えるという経営努力が見られました。
そして、こうした特殊材を生産するために山での造材ではなく、大きな土場(木場)まで全幹の状態でトラックで運び、そこで一本一本造材、仕分けを行うという独自の造材・仕分け・出荷システムを確立していることも注目すべき点です。
ただ同じように我々も養殖用いかだ丸太を生産すればいいのかというとそうではなく、やはりそれは速水林業が独自の生産システム、土地、売り先を持っているから可能になっている売り方だろうと思います。
ここで学ぶべきはこのやり方そのままではなく、原則として、ひとつの売り先と造材方法に依存するのではなく、自ら販路を拡大し、その材を生産するために必要な生産システムときめ細かな造材を行うことで、単価を上げていく努力が必要だということです。
建築用の丸太価格は国際的・全国的な流れの中で決められていくのでそこの単価を上げていくというのは大変難しい。そこを基準として立木価格を高めていくためには、生産コストの削減が求められるわけであって、全国的にも見ても低コスト化の推進は進んでいます。
ただ、それにも限界があるわけで、過度な低コスト化の要求(それはより速くより多くを意味するわけだが)は事故発生の危険性を高めることにもつながるでしょう。さらに立木価格を上げていくには、低コスト化と同時に素材生産全体として原木単価を上げていく努力が必要だと思います。
木材というのは柱以外にも多様な使い道があるわけで、ニッチな売り先というのは埋もれている可能性があると思います。それは三重・尾鷲では筏丸太だったかもしれないが、嶺北や高知県、四国ではまた違う需要があるかもしれない。
個人的には長伐期化に伴って生産される大径材の価格を上げられるような利用方法に今後注目していきたいと思っています。
「情報」を足で稼いで、需要を掘り出し販路を拡大していく経営努力が今後求められている。その好事例を見せていただいけました。
③森林への民間投資という国際潮流
速水さんや近藤さん(Bioフォレステーション)の話の中で出てきた森林・林業への投資(森林投資)という話にも興味を惹かれました。
森林投資に関しては、今回の講師の何名かも著者に加わっている『森林未来会議』にもアメリカの事例が書かれていたが、国際的にも投資家の投資先として林業分野への投資が広がっているという話がありました。
最近では先月(2019/10)に『諸外国の森林投資と林業経営―世界の育林経営が問うもの―』という本も出版されています。未読ですが、育林経営の確立しているアメリカやニュージーランドをはじめ、ハンガリーや東アフリカ地域の事例が紹介されているようです。
投資が行われるということは、リターンが生み出されるということの証拠であるから諸外国の育成林業が経済的にそうした状態になっているということが伺えます。一方で日本ではそういう話はほとんど耳にしません。
この森林投資の問題は、林政学で以前から議論されてきた「林業と資本主義」や「林業の近代化」というテーマと大きく関わってくると思われます。
またこういう流れが入ってきたときに、日本の林業や森林景観、さらに山村社会にどのような影響・変化があるのか、という点も含めて森林投資という動き・概念に目を向けていきたいと感じました。
④最終日のグループディスカッション
講座の最終日は参加者からいくつかディスカッションテーマを出してもらい、興味のあるものに分かれてグループディスカッションを行う、というものでした。
テーマを出し合う時間の時に話が振られて、自分が今協力隊の任期終了直前で、終了後の進路について色々考えているところだという話をすると、「じゃあみんなで君の将来を話し合う時間にしよう」ということになり、ディスカッションテーマの一つにぼくの人生設計を考えるというものが入ってしまった(他のテーマはICTの画期的なシステムの考案や苗木生産事業の考案、建築家と森林を繋ぐ事業プランなどであったがその中にこんなテーマが入り込んでしまって、大変ありがたいことではあり恐縮でした…)。
個人的にはあんまり後先のことをかっちり決めるのは好きではなくて、なるようになるで生きてきた人間なので、あえて将来をガチで考えるということをするのは、なんというか「産みの苦しみ」というか、すごく悩み苦しみました。
ただ、同じグループになってくださった3人がとても励ましてくれて、少なくとも今後6,7年ぐらいは自分の中で決心を付けることができたように思います。
そのことについては、また別のところで改めて書きます。
グループのお3人は、講座の中の貴重な時間をぼくのために使っていただいて本当に感謝しております。そして講師の皆さまも厳しくも前向きな提案をしていただいたことは決めるにあたってとても助かりました。
自分の人生のターニングポイントになる4日間になったように思います。ただのプランではなく、きっちり実現できるように頑張っていきたいと思います。
謝辞
以上は考えたことの一部でして、実際にはまとめきれてないけど本当にたくさんのことを学ぶことができました。3日間朝から晩(夕飯後も講義があったので実際に晩)までみっちり講義が行われ、ふらふらになるぐらい頭を使ったのを覚えています。本当に濃い講義の連続でした。
正直もう少し現場が動いているところとか見学して、タワーヤーダによる集材方法とか見られれば良かったですが、叶わずでした。また見学行く際の楽しみにしておきます。
協力隊3年間の締めとして受講しようと思った当講座でしたが、本当に受けて良かったと思います。
参加者の皆さん、講師の皆さん、本当にありがとうございました。
おいしんご