おいしんごがそれっぽく語ってみた

四国の真ん中、高知県本山町の役場で林業担当をしています。森林のこと、環境のこと、社会のことなど、日々学んだことや考えたこと、感じたことをそれっぽく語っていきます。

「生きる」ということに真摯に向きあった作品 映画「セイジ~陸の魚~」

 

「セイジ~陸の魚~」という映画を観ました。

高校のころに初めて観て、強烈なインパクトと余韻を残した作品です。友達におすすめ映画を訊かれた時にも必ず挙げる作品にしています。今回観るのが3度目です。

改めて観て、その内容の奥深さと精巧な描き方に胸を打たれたので、語ります。

 

監督伊勢谷友介で、森山未來西島秀俊のダブル主演という豪華なメンバーです。

公開は2011年

 

あらすじは以下の通り

学生最後の夏、「僕」は自転車旅行の途中、国道475号線沿いのドライブイン「HOUSE475」で、ただ純粋で不器用に生きる店主・セイジに出会う。そこで、寡黙に人間の生死についてを考えるセイジと個性豊かな常連客たちに惹かれた「僕」は、住み込みで働きながらセイジのことを観察するようになる。だが、その矢先、平和な日常を一瞬で吹き飛ばしてしまう凄惨な事件が起こる。

(Wikipedia 小説の方ですが映画とほぼ同内容)

 

この映画の特徴は、「生きる」ということや「いのち」というものに対する哲学のようなものを、豊かで凛とした自然を背景として、繊細に織り成しているところのように思います。

 

寡黙なセイジから発せられる言葉。セイジという人物を表す諸表現。そのすべてがメッセージとなって、私の心に沁み入って、刺さるのです。

 

「セイジには、物事が見えすぎるんじゃろう。見えすぎると、自分の無力さに気づき、その先には、、絶望しかない。わしらみたいな人間は、ある意味鈍感だからやっていける。鈍感さは、絶望を緩和してくれる、鎮痛剤なのかもしれん。」

 

「セイジ君はね、陸の魚なの。この世界に一人でも不幸な人間がいる限りは、自分も幸せにはなれない。そう考えてるのかもしれないなぁ、セイジは。だから、いつも、寂しさや哀しさで胸をいっぱいにしてる。… この世で生きるのを、諦めてしまった生き物。」

 

 

作中では動物愛護団体の人が、獣害対策として殺されている野生動物を殺すことへの、反対署名をセイジに求める場面が出てきます。

そこで繰り広げられる会話も印象的です。

生きている以上、その存在は場所を占め、食べ物を求め、生き物を殺します。

死の上に生が成り立っている。

そんな、どうしようもない矛盾に、敏感になってしまっては生きてはいけない。

しょうがいないことだと片付けられる人間と、しょうがないことだと分かっても悩んでしまう人間といるのだと思います。

そして、後者のような人間の象徴としての、セイジがあるように思います。

 

作中では、たくさんの動物の姿が映されています。

山の中の国道で轢かれたシカ、自然を優雅に飛ぶ鳥、水槽の中で飼われる金魚、トンボを喰らうカマキリ。

そんなたくさんの生が息巻く、豊かな自然の風景が、人が生きているというどうしようもない事実とそれから目をそらさずに愚直に、あまりにも愚かなまでに素直に向き合うセイジを包み込んでいるような、そんな印象を受けました。

 

 

またセイジ以外にも、そんな現実に抗ったり、認めて従って、生きていこうとする周囲の人間の様も丁寧に描かれています。

夢だけでは生きていけないんだと言って東京支店長に昇進になったタツオ。

不器用ながらも真面目に働くマコト。

若さが捨てきれず夢という言葉にすがりながらも、2人の成長に劣等感を感じるカズオ。

 

セイジとのコントラストがまたとても面白いです。

 

 

またなんといっても衝撃的なラストを語らずにはいれません。

無差別殺人犯に両親を目の前で殺され、自分も左腕を斬られた少女リツコ。ショックでまばたきもせず誰の声にも反応しない彼女の前に、現れたセイジが至った行動。

強烈な自己犠牲が表れたその行動には、胸を掻き毟られるような悲痛な感動を私につきつけてきました。

 

作中でここまで描き語ってきた、「生きること」「いのち」というテーマの行きつくところをまざまざと見せつけられたような感覚です。

PG12らしいこのラストは、何度見ても衝撃的です。

 

 

それほど難しい映画ではないように思います。セリフひとつひとつが素直で、映像一つ一つが優しい。それでいて奥深い。

 

セイジが序盤で語ったセリフ

「俺は一瞬でも生きたいって思うよ。」

これをどうとらえ、どう考えるか、というのも大きなテーマかなと感じました。

 

予告編です。

www.youtube.com

 

公式サイト

www.kinofilms.jp

 

 

是非一度、ご鑑賞あれ

 

 

おいしんご