おいしんごがそれっぽく語ってみた

四国の真ん中、高知県本山町の役場で林業担当をしています。森林のこと、環境のこと、社会のことなど、日々学んだことや考えたこと、感じたことをそれっぽく語っていきます。

共同出資という希望―沖縄 奥地区「奥共同店」の取り組みより―

先日ETV特集で放送された「沖縄の心(くくる) 共同店物語」(2015/12/5放送)を見ました。

沖縄の小さな集落で行われてきた、地域のあり方。とても魅力的でした。


その内容から感じた、これからの経済のあり方を少し掘り下げて考えてみたいと思います。

 

            

 

www.nhk.or.jp

「沖縄の心(くくる) 共同店物語」は、沖縄本島北部にある奥地区にある唯一の小売店「奥共同店」とそれを中心に展開するその地域の人々の生活を切り取ったドキュメンタリーです。

 

共同店の歴史は109年と非常に長いものです。日本の領土となるとともに、島外からたくさんの資本が舞い込み、経済を席巻するようになりました。田舎に巨大デパートが進出し、地域の商店街がシャッター街になるようなものです。
これに対抗し、住民の生活を守っていくという考えで共同店は作られたようです。



この共同店の大きな特徴が、地域住民みんなで出資しあって出来上がった店だということです。いうなれば地域住民みんなが株主ということです。番組中ではその「株主台帳」も紹介されていました。
共同店の主任は任期2年で、毎回住民の選挙によって選ばれます。
住民みんなでの出資ということなので、一人の、もしくは少数の資産家が資本の拡大を目指して作った企業とは異なります。

 

そこには自動的に、住民のためのサービス、また住民たちで作っていく経営というのが生まれてきます。
共同店は地域の人々のモノやサービスを提供するだけでなく、机といすを用意していて地域の人々の交流の場ともなっています。

 

堅い言葉で言えば「コミュニティの中心」のようなものなのでしょうか。

 

この取り組み(もう100年も続いていることなので住民にこういう意識はないでしょうが)は、日本の過疎地域でも真似されています。

 

番組で紹介されていたのは宮城県丸森町の「なんでもや」の事例です。

宮城県の南端にある丸森町のある地域ではスーパーがすべて撤退するという事態になり、地域に買い物をする場所がなくなりました。そこでこの共同店を参考にして、共同出資の「なんでもや」を作りました。
地域で唯一買い物をできる場所として地域の生活や経済を支えると同時に地域の人たちの交流スペースとして活躍しています。


これらの取り組みは、内山節の提起する「半市場経済」という概念に当てはまるもののように思います。
内山節編『半市場経済』(2015年 角川新書)では、従業員全員を株主にするというジョン・ルイスの事例が紹介されていて、その半市場経済性を述べています。

 

 

現代の企業経営というのは基本的に、一人、もしくは少数の資本家が自らの資本を拡大させるために動いているものです。
そこには資本家-労働者関係、雇用-被雇用関係、もっと言ってしまえば支配-被支配関係が成り立っています。
これが、現代の資本主義的市場経済において人々が「人間らしく働く」ことを阻んでいると言えます。また格差の拡大にもつながっています。

 

そうではなくて、すべての従業員が株主、企業のオーナーになるになる。
これはすべての従業員が、経営に責任を持つということでもあり、みんなで企業を作っていく(いわゆる協働)のシステムで動くということでもあります。
これは雇用環境、労働環境の改善につながらざるを得ません。結果として労働者が人間らしく労働する仕組みができます。

 

もちろん理論的なもので、現実的にそんなうまくいくものではない。企業の規模などを考えると、難しい点や課題は多くあると思います。
しかし、現実の労働問題を改善するひとつの方向性として考えられるのではないかと考えられます。

調べてみると、沖縄以外にも本土で20か所以上このような形で起業されたお店があるようです。
またワーカーズ・コープという形の協働組織の取り組みもあります。
これも共同出資の理念です。

 


こういったように、共同出資というあり方に私は大きな希望を感じています。
市場経済を否定するのはなく、うまく人間の側がコントロールしていく。それがさらには人のつながり、地域のつながり、QOLに結びついてく。
そんな市場経済を見据えることも可能なのではないでしょうか。

 

「共同出資」という概念には、これからも注目していきたいです。


ちなみに、我が地元高知県でも行われています。
四万十市 大宮産業(株)」

集落の人たちの暮らしを第1に考えて設立された共同売店「高知県四万十市」◆2/4

 

これに着目した研究もあるようです。

「共同店にみられる半商品性 ー(独)農研機構農村工学研究所 唐崎卓也」http://www.tuat.ac.jp/~amtuat/han-shohin/han-syohin-seika/karasaki.pdf

 

 

おいしんご